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2007年12月16日

月の信管

 戌神の家は広い。

門から玄関まで、120ヤードはある。


 その距離を一気に走り、玄関をあける。

自動車や玄関の履き物の状況から見て、いまこの家には
戌神ひとりである。

やつはすでにわしの接近に気づいているかも知れない。
対応する時間を与えてはならない。

わしは土足のまま上がりこみ、廊下を進んで階段を駆け上がる。
のぼった突き当たりがヤツの部屋だ。やつはこの家では、自室
以外の立入はゆるされていないので、必ず自室にいる。

入り口のフスマを開け放ち、ベレッタの銃口でさがすと、
やつはこちらに背を向けて床にすわっている。

「わしだ。動くんじゃないぞ」

くちゃくちゃと、湿ったものを咀嚼する音。
それを飲み込む音。首だけでゆっくりと振り向く戌神。

口のまわりになにか茶色いツブがついており、唾液と
まざって蛍光灯の光を反射している。


「おかかですよ」


そう言ってヒザにかかえた白いプラスティックのボウルに
手を入れ、茶色いものをすくっては口に運ぶ。


「どうです?ビニさんもヒヒ」

目に狂気の色が見える。

「メシも5合といであります。もうすぐ炊けます。フヒヒ」


普段から、気に入らないことがあると黙って焼肉屋へ走り、
出身中学の校歌を棒読みしながら焼きたての熱い肉を投げ
つけてくるなど、おかしな言動の目立つ男だったが、ここまで
明らかな狂人ぶりをしめすことはなかった。

いったいなにが・・・・。


「スルメもありまふよ。うううぇ」

そう言って、Tシャツを着ているにもかかわらず、内ポケットから
なにかをとりだす仕草をする。

出てきたのは一匹まるごとの焼いたスルメである。

それに引っかかって一緒に出てきたのだろう、一枚の紙切れも
床に落ちる。

「あふぅあ!」

ヤツの目に一瞬おびえと狼狽の色が走り、その紙切れを
あわてて拾おうとするが、わしの動きのほうが速かった。

紙切れを拾い上げ、ベレッタで戌神を牽制しながら
それを見る。

写真?



reje.jpg



なんだこれは?


写真を示しながら戌神に問いただすと、やつは半泣きになりながら
股間のものを大きくさせている。


「これに欲情しているんだな?」


そう決め付けてやると

「ばっふぉ!ばっふぉ!べれす!」

と叫び、うれしそうにうなづく。


写真を投げてやるとあわてて拾い、大事そうに
部屋の隅に積んであるザブトンの一番下にしまいこむ。

そのザブトンの上に、あのタマゴが3個のっている。

「あれは・・・」


そのとき、部屋に「アンパンマンマーチ」が鳴り響いた。
戌神のケータイの着信音である。これだけは変えていない
らしい。

いそいで電話に出ようとする戌神を制し、わしは机の上の
ケータイを手にとる。


発信者の名前が表示される。



 てしま・カナユニ


「アンパンマンマーチ」が2周目のループを
演奏しはじめた。



                  つづく


posted by ビニール at 06:54| Comment(2) | TrackBack(0) | サルモネ戦記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
戌さん乙ww
Posted by 生鮮と死神 at 2007年12月18日 09:15
どう切り返すかと思っていましたがやりますネ!
こちらでは異常者は老子なのですね
Posted by Lancet at 2007年12月18日 15:46
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